ほかにも理由はあるかもしれませんが、こうした事情で歯髄を取ってしまうと、あとから歯にトラブルが起こることがあります。やむを得ない場合は別として、歯髄は残したほうが歯は長持ちします。
②ハグキ(歯肉)の問題
被せ物が合っていない歯は、歯肉が炎症を起こします。歯肉の縁が赤い、出血しやすい、ブヨブヨしている、といった状態です。磨きにくくて不潔になることや、生物学的幅径(ややこしいので説明は省きます)の関係で起こります。
セラミックでも銀歯でも、歯と被せ物の境目に段差があってはいけません。そして仮歯で歯肉との調和を確認してから、最終的な被せ物に移ります。
前歯の歯肉の位置には、高低差に一定の決まりがあります。左右対称であることも、美しく見える条件です。またブリッジのように歯がない部分を修復する場合、抜歯後は歯肉が痩せるため、できあがった歯が長く見えてしまうこともあります。
こういった点にも注意を払って、時には歯肉の手術なども併用しつつ、きれいに合わせることが可能です。
症例⑤前歯の被せ物をキレイにしたい/40代女性
初診時年齢:40代
性別:女性
主訴:前歯の被せ物をキレイにしたい
治療期間:7ヶ月
費用:977,900円(税込/税抜889,000円) ※セラミックブリッジ5本、結合組織移植術(CTG)、歯肉弁根尖側移動術(APF)を含む総額です
治療のリスク:術後の痛み・腫れ・出血・内出血、移植した結合組織が生着しない可能性、口蓋(組織の採取部)の一時的な疼痛や違和感、一時的な知覚過敏、将来的な歯肉退縮の再発、セラミックの破折・脱離、支台歯の二次う蝕
副作用:術後の腫れ、痛み、内出血
治療内容/装置:右上3〜左上2の5本オールセラミックブリッジ(右上2は欠損部のポンティック)、結合組織移植術(CTG)、歯肉弁根尖側移動術(APF)(自由診療)
もともとメンテナンスで通われていた患者様です。下の写真は初診時のもの。ここから定期的に管理しながら経過を見て、「前歯の被せ物をキレイにしたい」というご希望を受けて治療を開始しました。実際の治療期間は7ヶ月です。
初診時
上の前歯には以前の被せ物が入っていましたが、境目が歯肉と調和しておらず、歯ぐきの高さも左右で揃っていませんでした。加えて右上2番目の歯が欠損しています。抜歯後に歯ぐきが痩せているため、そのまま作ると「歯が長く見える」仕上がりになる状態でした。
最終補綴物(オールセラミックブリッジ5本)装着時
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初診時
最終補綴装着時
中央のハンドルを左右に動かすと、初診時と最終補綴装着時を比較できます(矢印キーでも操作できます)
歯科技工士牧絵(DL-C)
Process歯ぐきの手術(CTG・APF)を含む工程を見るタップして詳しい解説を読む(写真1枚)
被せ物を作る前に、歯ぐきを整える
このケースでいちばん時間をかけたのは、被せ物ではなく歯ぐきの環境づくりです。右上に、2つの歯周形成外科処置を組み合わせて行いました。
・結合組織移植術(CTG):上あご(口蓋)から採取した結合組織を、痩せた歯ぐきに移植して厚みを回復させる処置です。欠損部の歯ぐきが凹んだままだと、ポンティック(ダミーの歯)の付け根に不自然な影ができ、清掃もしにくくなります。
・歯肉弁根尖側移動術(APF):歯ぐきの位置を根の方向へ移動させ、歯の見える長さと歯ぐきのラインを調整する処置です。左右の歯の長さを揃えるために行いました。
この2つを行ったうえで、仮歯(プロビジョナルレストレーション)に移行しました。仮歯の段階で歯ぐきとの調和と形態を作り込み、その形を最終補綴物へ移していきます。
仮歯(プロビジョナルレストレーション)装着時
仮歯で歯ぐきが落ち着くのを待ち、形態を微調整してから、右上3番〜左上2番の5本をオールセラミックブリッジで製作しました。右上2番は歯がない部分なので、ブリッジのポンティックとして、歯ぐきとの境目が自然に見えるよう設計しています。
やらなかったこと
正直にお伝えすると、このケースは「これ以上ないところまでやりきった症例」ではありません。
歯科医師の立場から見れば、左上2番にもAPFを行えば、ガムラインの左右差をもう一段整えられました。歯の位置や噛み合わせを考えると、矯正治療を組み合わせたほうがより良い結果になるケースでもあります。どちらもご説明したうえで、患者様は「そこまでは希望しない」というご判断でした。
術者ができることを全部やれば正解、とは考えていません。かかる期間、費用、体への負担、そして「どこまで気になるか」は人によって違います。選択肢とそれぞれの結果をお伝えしたうえで、どこで区切るかはご本人に決めていただく。このケースは、その線引きをご本人が選ばれた結果です。
そのうえで言えるのは、被せ物を作る前に歯ぐきを整えるかどうかで、仕上がりも、その後の歯ぐきの落ち着き方も変わるということです。セラミックの色や形だけでは、ここは解決できません。
歯ぐきが下がってしまっている部分を回復させる処置については、ブログ記事「下がった歯茎は戻せるのか|根面被覆術(ルートカバレッジ)の症例」でも詳しくご紹介しています。
※本症例は自由診療(保険適用外)です。※費用は治療当時のものです。現在の料金は料金表をご覧ください。※治療期間および結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。
症例⑥前歯の歯ぐきから血が出る/32歳女性
初診時年齢:32歳
性別:女性
主訴:前歯の歯ぐきから血が出る
治療期間:1年6ヶ月
費用:1,452,000円(税込/税抜1,320,000円)
治療のリスク:外科処置にともなう術後の腫れ・痛み・出血、根管治療を行っても症状が改善せず再治療や抜歯が必要になる可能性、歯冠長延長術により歯根が露出して知覚過敏や見た目の変化が生じる可能性、支台歯(土台となる歯)の切削が必要なこと、セラミックの破折・欠け・脱離、支台歯の二次う蝕、将来的な歯ぐきの退縮により被せ物との境目が見えてくる可能性
副作用:術後一時的な腫れ・内出血・知覚過敏、歯ぐきの一時的な違和感
治療内容/装置:精密根管治療4本、歯根端切除術・逆根管充填、歯冠長延長術(クラウンレングスニング)、前歯6本のオールセラミック修復(自由診療)
4年前に美容整形外科で『セットバック矯正』という手術を受けられた方です。前から4番目の小臼歯を4本抜き、そのスペース分の骨を切り取って、顎全体を後ろに下げる術式です。
その際に前歯4本の歯髄を抜き、6本をセラミックの被せ物にしています。しかし4本中2本が根尖性歯周炎になっていました。セラミックも歯肉と合っておらず、炎症が見られます。
初診時
まずマイクロスコープ下で根管治療を行い、MTAセメントで根管充填をしました。このとき被せ物を一旦すべて外し、仮歯(テンポラリークラウン)に置き換えています。仮歯を少し調整し、ガムライン(歯肉の位置・高さ)もある程度合わせました。
最終補綴物装着
Process根管治療から歯ぐきの手術、仮歯までの工程を見るタップして工程写真を見る(4枚)
根管治療終了・テンポラリークラウン装着時
仮歯まで作ったら、治療計画をもとにワックスアップ模型で設計・診断を行い、被せ物を設計していきます。患者様は笑うと歯茎が見えるガミースマイルで、改善のご希望がありました。そこでクラウンレングスニングと、歯根端切除術・逆根管充填の手術を計画しました。
ワックスアップ模型にて設計・診断
手術(クラウンレングスニングおよび歯根端切除術・逆根管充填)
手術後、ファーストプロビジョナル、セカンドプロビジョナルと仮歯の調整を重ね、最終補綴物を装着しました。
初診時 → セカンドプロビジョナルレストレーション装着時
根管治療、歯肉の手術、仮歯の調整を重ねた末に、最終的な補綴物を装着した状態がこちらです。
※本症例は自由診療(保険適用外)です。※費用は治療当時のものです。現在の料金は料金表をご覧ください。※治療期間および結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。
症例⑦被せ物をきれいにしたい/40代女性
初診時年齢:40代
性別:女性
主訴:被せ物をきれいにしたい
治療期間:12ヶ月
費用:715,000円(税込/税抜650,000円) ※オールセラミックブリッジ5本分600,000円(税抜/1本あたり120,000円)+歯肉弁根尖側移動術(APF)50,000円(税抜)の合計です。根管治療および歯根端切除術は健康保険の適用で行っています
治療のリスク:支台歯(土台となる歯)の切削が必要なこと、外科処置にともなう術後の腫れ・痛み・出血、歯ぐきを下げることで歯根が露出し知覚過敏や見た目の変化が生じる可能性、セラミックの破折・欠け・脱離、支台歯の二次う蝕、噛み合わせが深いため被せ物に負担がかかりやすく経過観察を要すること、将来的な歯ぐきの退縮により被せ物との境目が見えてくる可能性
副作用:術後一時的な腫れ・痛み・知覚過敏、歯ぐきの一時的な違和感
治療内容/装置:右上3〜左上2の5本オールセラミックブリッジ(左上1は欠損部のポンティック/自由診療)、歯肉弁根尖側移動術(APF・自由診療)、根管治療・歯根端切除術(保険診療)
「入っている被せ物をきれいにしたい」というご相談でお越しになった方です。ただ、診査を進めると見た目だけの問題ではありませんでした。
初診時。歯ぐきが歯に多く被さっており、1本あたりの歯が短く見える状態でした
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初診時
仮歯装着時
中央のハンドルを左右に動かすと、初診時と仮歯装着時を比較できます(矢印キーでも操作できます)
最終補綴物(オールセラミックブリッジ5本分・左上1はポンティック)装着時
根の先に病変のあった歯には根管治療と歯根端切除術を行っています。これらは健康保険の範囲で実施しました。
Processフェルール不足への対応と、ガミースマイル改善の考え方を見るタップして詳しい解説を読む(写真1枚)
被せ物を作る前に見つかった問題——フェルールが足りない
被せ物にはフェルールという条件があります。被せ物が、残っている歯の壁をぐるりと帯のように抱え込んでいる部分のことです。この帯が十分にあると、噛む力が加わっても被せ物と歯が一体で受け止められます。
逆にこの帯が足りないと、外れやすく、歯そのものも割れやすくなります。この方は、歯ぐきの上に出ている歯が短く、そのままではフェルールを確保できない状態でした。
そこで歯ぐきの位置を下げて、歯が見えている部分を増やす手術(歯冠長延長術)をご提案しました。見た目のためではなく、被せ物を長持ちさせるために必要な処置としてです。
せっかくなら、ガミースマイルも一緒に
この説明をしたところ、患者様から「笑ったときに歯ぐきが見えるのが、ずっと気になっていた」というお話がありました。いわゆるガミースマイルです。
ここで話がつながりました。被せ物のために必要な「歯ぐきを下げる処置」は、ガミースマイルの改善そのものでもあります。どうせ行うなら、必要最小限で止めるのではなく、笑ったときの見え方まで設計してしまおう——ということになりました。
実際に行ったのはAPF(歯肉弁根尖側移動術)で、歯ぐきのラインを根の方向へトータル5mmほど移動しています。歯が見えている部分がその分長くなり、笑ったときの歯ぐきの露出が減ります。歯ぐきを切り取るのではなく、歯ぐきの弁を作って根の方向へ移動させ、必要な幅の歯ぐきを残したまま位置だけを変える方法です。
仮歯(プロビジョナル)装着時。ガムラインが下がり、1本あたりの歯の長さと歯ぐきのバランスが整いました
やらなかったこと
正直にお伝えしておきたいことがあります。この方には、本来もう2つ提案すべき治療がありました。
ひとつは噛み合わせの深さです。上の前歯が下の前歯を深く覆っており、前歯にかかる負担が大きくなります。本来であれば矯正治療で噛み合わせの深さを整えてから被せ物を作るほうが、被せ物は長持ちします。
もうひとつは左上1番の欠損に対する補綴です。今回はブリッジのポンティックで補っていますが、両隣の歯に負担がかかる形になります。本来であればインプラントなどで欠損部を単独で支えるほうが、両隣の歯を守れます。
どちらもご説明したうえで、患者様は「まず見た目を優先したい」というご希望で、費用面のご事情もあり、現時点では行っていません。ご本人の満足度は高く、それ自体はよかったと思っています。ただ噛み合わせが深いままである以上、被せ物には負担がかかり続けます。だからこそ定期的な確認が欠かせませんし、この点は治療前にはっきりお伝えしています。
「今できること」と「本来やるべきこと」がずれる場面は、実際の診療では珍しくありません。どちらも隠さずお伝えしたうえで、ご本人に選んでいただく——それが当院の考え方です。
※本症例は自由診療(保険適用外)です。※根管治療および歯根端切除術は健康保険の適用で行っており、上記の費用には含まれません。※費用は治療当時のものです。現在の料金は料金表をご覧ください。※治療期間および結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。