
①根管・歯髄(歯の神経)の問題
歯には歯髄(神経)が存在します。虫歯が歯髄に達していたり、衝撃などで歯髄が損傷した際に、抜髄と言って歯髄を取り除く処置を行うことがあります。
歯から歯髄がなくなると、当然感覚がなくなり、痛みを感じなくなります。そして歯そのものは、結果的に弱くなります。
被せ物をするだけであれば、基本的に歯髄を取り除く必要はありません。しかし患者様のお話を聞くと「何も言われずに神経を抜かれた」と言う声が非常に多いです。
そして、その歯髄を抜く際の治療がうまくいかず失敗すると、感染根管、いわゆる根尖部分の骨が溶ける『根の病気』となり、再根管治療が必要となります。再根管治療では場合によっては被せ物を外す必要も出てきますので、高額な出費であったのにやり直しになることもあるのです。この再根管治療のご依頼が、審美歯科関係トラブルの来院理由で最も多いです。
抜髄に及んでしまうのには、以下の3つの理由が考えられます。
1-1 被せ物の自由度を上げるため
歯髄がある状態では、歯を大きく削ると歯髄に当たってしまい、痛みが出てしまいます。そのため歯を削る量が制限されます。


歯髄を取り除くことで、痛みを感じなくなりますので、歯を大きく削る事ができるようになります。そうすると、歯の大きさや、角度や向きを大幅に変えることができます。内側に大きく角度を変えて入れ込むことで、出っ歯の傾向のある噛み合わせを、見かけ上は改善することができます。
しかし歯を削る量が多ければ、それだけ歯の寿命は縮まりますし、切端咬合と言って先端と先端で噛み合うような噛み合わせになってしまうことが多く、歯に非常に負担がかかります。「歯列矯正で何年もかけなくても、すぐに綺麗になりますよ」という言葉には注意が必要です。

1-2 痛みが出ないようにするため
歯髄がある状態で歯を削ると、削ったところは風や冷たい水などがしみる症状が出ることがあります。
エナメル質よりも内側の象牙質は感覚があるので、痛みが出るのは当然なのですが、この痛みの程度は歯髄とも関係が大きいです。歯を削る時に熱などによってダメージを与えてしまうと歯髄が炎症を起こすことがあります。これを歯髄炎と言いますが、歯髄炎を起こすと痛みが出ます。
歯を削る際にはドリルのような器具を用いますが、これを高速切削器具と言います。少し前までは『エアタービン』と言って、強風でタービンを回して分速300,000〜500,000回転という速度で削る器具が主流でした。この器具は「キーン」という高音が出るので、エアタービンの音が歯医者のイメージだと思います。
最近では『5倍速コントラアングル』という器具が主流になりつつあります。こちらの器具は回転数で削るというよりも、トルク(力)が強く、分速200,000回転でも切削が可能です。回転数が少ないためブレが少なく安定しやすいというメリット、音が小さいというメリットがあります。そして回転数が少ないので、摩擦熱が抑えられ、歯髄が熱によって炎症を起こしにくいというメリットがあります。
また、近年よく言われるようになってきたIDS(Immediate Dentin Sealing)という概念です。こちらは、削って出てきた新鮮な歯面は、しっかりとコーティングして外界から保護しましょう、という方法です。象牙質には細かい管(象牙細管)が無数にあり、表面から歯髄まで繋がっています。削りっぱなしにしてしまうと、この象牙細管から細菌が侵入します。そして場合によっては歯髄炎を引き起こします。IDSは汚染から歯を保護するために、必須の技術です。
1-3 トラブルの防止
上記の歯の痛みが、もしも被せ物を被せた後に起こったらどうでしょうか。せっかく高い歯を被せたのに、また外して(或いは穴を開けて)根管治療をしなくちゃならないの!?となりませんか?そういった術後のトラブルを避けるために、歯の感覚を無くしてしまおう、という浅慮な考え方です。



