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下がった歯茎は戻せるのか|根面被覆術(ルートカバレッジ)の症例

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こんにちは!Hatch Dental Clinic 院長の平沼です。

(すみません、今回は雑談なしで本題から入ります)

「歯茎が痩せてきた気がする」「根元が黄色く見える」「冷たいものがしみる」——診療室でよくお聞きするお悩みです。

下がってしまった歯茎は、放っておいて元に戻ることはありません。ただ、外科的に歯肉を移植して根面を覆う「根面被覆術(ルートカバレッジ)」という方法があります。今回は実際の症例とあわせて、この治療で何ができて、何ができないのかを正直にお話しします。

本記事の内容は、当院で歯周外科を担当する清水医師が監修しています。

この記事の結論
  • 下がった歯茎は、自然には戻りません。覆うには外科的な処置が必要です
  • 結合組織移植を併用した根面被覆術が、現時点でのゴールドスタンダードです。2022年のネットワークメタ解析で、歯肉弁を移動させるだけの方法より優れていると報告されています
  • ただし「全部きれいに覆える」わけではありません。歯と歯の間の骨や歯茎がどれだけ残っているかで、覆える量の上限が決まります
  • 放置した部位の約8割は、時間とともに退縮が進みます。ただし進み方はゆっくりで、慌てる必要はありません
  • 「歯茎が下がる=必ずしみる」ではありません。退縮した歯のうち、実際に知覚過敏を示すのは1割程度と報告されています
  • 強いブラッシングが原因、とは言い切れません。この因果関係は今も結論が出ていないというのが、文献を読んだ正直なところです

実際の症例:30代女性・上顎左右の根面被覆術

まず、実際の症例からご覧ください。「歯茎が痩せてきたのが気になる」「根元がしみる」という主訴でご来院された30代の女性です。

根面被覆術の術前 口腔内5枚法
術前。上顎の左右とも、犬歯から小臼歯にかけて歯肉が退縮し、根面が露出しています。
根面被覆術の術前 正面観
術前の正面観(上の5枚法から拡大)。

上顎の左右を1ブロックずつ、計2ブロックに分けて根面被覆術を行いました。術式は結合組織移植術(CTG)です。上顎の口蓋(上あごの内側)から結合組織を採取し、露出した根面の上に移植して、その上から歯肉を覆いかぶせる方法です。

根面被覆術の術後 正面観
術後。露出していた根面が歯肉で覆われ、歯肉の厚みも増しています。
根面被覆術の術後 側方観
術後の側方観。
症例の詳細

患者様:30代・女性

主訴:歯茎が痩せてきたのが気になる/根元がしみる

診断:上顎左右臼歯部および犬歯部の歯肉退縮

治療内容:根面被覆術(結合組織移植術/CTG) 上顎左側1ブロック・右側1ブロックの計2ブロック

治療期間:約3ヶ月

費用:200,000円(税抜)(1ブロックあたり100,000円(税抜) × 2ブロック)

主なリスク・副作用:術後の痛み、腫れ、感染。移植片を採取した口蓋側にも一時的な不快感が生じます。歯肉が完全には覆えない場合や、経過とともに一部後戻りする場合があります。喫煙は再発のリスク因子として報告されています。

この治療は自由診療(保険適用外)です。治療の結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

根面被覆術(ルートカバレッジ)とは

歯肉が下がって露出してしまった歯の根っこ(根面)を、歯肉で覆い直す外科処置の総称です。「ルートカバレッジ」とも呼ばれます。

方法はいくつかありますが、大きく分けると次の2つです。

①歯肉弁を移動させる方法(CAF)

その部位に残っている歯肉を、根面を覆う方向へ移動させて縫合する方法です。他の部位から組織を採らないので、患者様の負担は比較的少なくて済みます。

②結合組織移植を併用する方法(CAF+CTG)

上あごの内側(口蓋)から結合組織を採取し、露出した根面の上に移植したうえで、歯肉を移動させて覆う方法です。今回の症例もこちらです。

採取する部位がもう一箇所できるので負担は増えますが、結果の確実性と長期の安定性で、現時点ではこの方法が最も優れているとされています。

2022年に発表されたネットワークメタ解析(38の研究、830名、1,265部位)では、結合組織移植を併用した方法が、術後6ヶ月・12ヶ月時点の被覆率でも、角化歯肉の増加量でも最上位にランクされ、論文中で「single gingival recession の治療におけるゴールドスタンダードとみなせる」と結論づけられています1)

実際の上乗せ効果としては、歯肉弁を移動させるだけの方法と比べて平均被覆率が13.41ポイント、完全被覆が得られる割合が14.41ポイント高いと報告されています2)

歯茎が下がったまま放っておくとどうなるか

ここが患者様にとって一番知りたいところだと思いますので、文献にもとづいて整理します。ただし誇張はしません。調べてみると、よく言われている話のうちいくつかは、実は根拠が弱いということも分かりました。

①退縮した部位の約8割は、ゆっくり進行する

これは、はっきりしたデータがあります。

未治療の歯肉退縮を2年以上追跡した研究をまとめた2016年のシステマティックレビューでは、データのある1,647部位のうち78.1%で、追跡期間中に退縮量が増加していました。さらに、追跡した患者さんでは退縮している部位の数そのものが79.3%増えていました3)

つまり「放っておけばそのまま」ではなく、多くの場合はじわじわ進むということです。

ただし、ここは正直に書いておきたいのですが、進み方はかなりゆっくりです。ブラジルで402名を4年間追跡した集団調査では、頬側の退縮の進行量は4年で平均0.40mmでした4)。「今すぐ手術しないと大変なことになる」という類の話ではありません。

②露出した根面はむし歯になりやすい

歯の根っこは、頭の部分(エナメル質)と違って、より弱い酸性度でも溶け始めます。ですから露出した根面は、むし歯のリスクが上がります。

これについては日本人のデータがあります。東京都内の企業に勤める25〜63歳の299名を2年間追跡した研究で、根面う蝕の既往がない方を対象にしたものです。歯肉退縮のある歯が5歯以下の人を基準にすると、6〜9歯ある人で根面う蝕の発生リスクは約7.7倍、10歯以上ある人では約9.2倍でした5)

ただし念のため申し添えると、「根面被覆術をすれば根面のむし歯を予防できる」ことを直接示した研究は見当たりませんでした。根面う蝕への対応としては、まずフッ化物配合の歯磨剤による毎日のブラッシングが第一選択とされています6)

③しみる——ただし「必ず」ではありません

知覚過敏はよく語られる症状ですが、ここは誤解されやすいところです。

ブラジルで35歳以上の1,023名を実際に診査した研究では、歯肉退縮のある歯のうち、実際に知覚過敏を示したのは約10%でした7)。歯茎が下がっている=必ずしみる、ではありません。

逆に言えば、実際にしみている方にとっては、根面被覆術は有効な選択肢です。13のランダム化比較試験(701名、1,086部位)をまとめたメタ解析では、根面被覆術による知覚過敏の消失率は70.8%、結合組織移植を併用した方法では73.3%と報告されています8)

④「強く磨きすぎたせい」とは言い切れません

意外に思われるかもしれませんが、ここは正直に書きます。

ブラッシングと歯肉退縮の関係を検証した2007年と2015年のシステマティックレビューは、どちらも「ブラッシングと歯肉退縮の関連を支持するにも否定するにも、データは決定的ではない」と結論しています9)10)。2025年の最新のメタ解析でも、ブラッシングは有意なリスク因子として抽出されていません。

一方で、硬い毛の歯ブラシは歯肉を傷つけやすいことは示されており、やわらかめの歯ブラシが推奨されます11)。この点はおすすめ歯ブラシランキングの記事でも詳しく書きました。

疫学研究で一貫して強く関連するのは、歯周炎・プラーク・喫煙などです。「磨きすぎたのが悪かったんだ」と自分を責める必要はありませんし、怖がって磨かなくなるほうがずっと問題です。

根面被覆術のメリットとデメリット

項目内容
見た目の改善露出していた根面が歯肉で覆われ、歯の長さが揃います。前歯部では審美的な効果が大きい処置です
知覚過敏の改善メタ解析で70.8%の消失率が報告されています8)
歯肉の厚みが増す結合組織を移植するため、角化歯肉の幅が平均0.71mm増えると報告されています2)。厚みが増すことは、その後の安定性にもつながります
退縮の進行を止める覆うことで、その部位のさらなる進行に対応できます

デメリット・注意点(正直なところ)

いいことばかりではありませんので、こちらも書いておきます。

  • 手術が必要です。結合組織移植を併用する場合、上あごの内側に採取部位ができます
  • 術後の痛みは、歯肉弁を移動させるだけの方法より多くなります。これは比較試験ではっきり出ている差で、手術時間が長く、術後の不快な日数が多く、鎮痛薬の使用量も多かったと報告されています12)
  • 完全に覆えるとは限りません。これは次の項で詳しく書きます
  • 自由診療です。保険は適用されません
  • 喫煙は再発のリスク因子です。20年の追跡調査で、喫煙が15年時点の再発と関連していたと報告されています13)

ちなみに、同じ比較試験で見た目の評価スコアには差がなかったとも報告されています12)。つまり負担が増える分の見返りは、審美性そのものというより「確実に覆えるかどうか」と「長持ちするかどうか」にあります。

どこまで覆えるかには、上限があります

ここが、この治療でいちばん誤解されやすい部分です。

根面被覆でどこまで覆えるかは、術者の腕だけで決まるわけではありません。歯と歯の間(隣接面)の骨と歯茎がどれだけ残っているかで、上限が決まります。

これを分類したのが、2011年に発表されたCairoのRT分類です14)

分類隣接面の状態見込み
RT1隣接面の付着の喪失がない完全に覆える可能性が最も高い
RT2隣接面の喪失が、頬側の退縮量以下部分的〜完全に覆える。条件次第
RT3隣接面の喪失が、頬側の退縮量より大きい完全な被覆は期待しにくい

RT2の症例を対象にしたランダム化比較試験では、隣接面の付着の喪失が3mm以下であれば、結合組織移植を併用することで80%を超える症例で完全被覆が得られたと報告されています12)。逆に言えば、隣接面の状態が悪いほど見込みは下がります。

ですので当院では、まず検査をして、どこまで覆えそうかをお伝えしてから治療に進むかどうかをご判断いただいています。「やってみないと分からない」ではなく、ある程度の見通しは事前に立てられる治療です。

20年後、どうなっているか

患者様に説明するとき、僕がいちばん大事だと思っているのがここです。

結合組織移植を併用した根面被覆術について、20年間追跡した研究があります。45名・45部位を、1990年代から20年間追った報告です13)

1年後20年後
平均被覆率(全体)74.23%67.69%
完全被覆率(隣接面の喪失がない症例)57.14%47.62%
平均被覆率(隣接面の喪失がない症例)82.37%77.62%

正直な数字だと思います。20年経っても被覆の大部分は保たれている一方で、完全に覆えた状態が20年後も保たれているのは、条件の良い症例で約半数ということです。

この研究では、再発と関連した要因も報告されています。付着した角化歯肉の幅が2mm未満であること、根面にくさび状の欠損(NCCL)があること、そして喫煙です13)

逆に言えば、厚みと角化歯肉をしっかり獲得できれば長持ちしやすいということでもあります。結合組織移植を選ぶ理由の一つがここにあります。

よくある質問

下がった歯茎は、自然に戻ることはありますか?

残念ながら、いったん下がった歯肉が自然に元の位置まで戻ることはありません。歯肉を覆い直すには外科的な処置が必要です。ただし、退縮の進行を遅らせるために、歯周病の管理・プラークコントロール・禁煙・やわらかめの歯ブラシへの変更といった対応は有効です。

手術は痛いですか?

手術中は麻酔をしますので痛みはありません。術後については、結合組織を移植する方法は、歯肉を移動させるだけの方法と比べて不快な期間が長く、鎮痛薬の使用量も多くなることが比較試験で報告されています。上あごの内側にも採取部位ができるためです。鎮痛薬をお出ししますので、指示どおりに服用してください。

何回くらい通院が必要ですか?

当院では1回目のご来院で問診と検査、2回目で検査結果と治療計画を詳しくご説明しています。そのうえで手術、術後の消毒・抜糸、経過観察と進みます。今回ご紹介した症例では、2ブロックの処置を含めて治療期間は約3ヶ月でした。範囲や本数によって変わりますので、検査後にお伝えします。

保険は使えますか?

根面被覆術は自由診療(保険適用外)です。当院では1ブロックあたり100,000円(税抜)をいただいております。詳しくは料金表をご覧ください。

何歳まで受けられますか?年齢制限はありますか?

年齢そのものによる制限は設けていません。ただし歯周病が活動的な状態では、まずそちらの治療を優先します。また喫煙は再発のリスク因子として報告されていますので、禁煙をお願いすることがあります。全身疾患の有無を含めて、検査のうえでご相談します。

歯茎が下がる原因は何ですか?

疫学研究で一貫して強く関連するのは、歯周炎、プラークの蓄積、高位に付着した小帯、咬合性外傷、喫煙などです。「強すぎるブラッシングが原因」とよく言われますが、この因果関係については複数のシステマティックレビューが「結論が出ていない」としています。ただし硬い毛の歯ブラシが歯肉を傷つけやすいことは示されているため、やわらかめの歯ブラシをおすすめしています。

参考文献

  1. Chambrone L, Botelho J, Machado V, Mascarenhas P, Mendes JJ, Avila-Ortiz G. Does the subepithelial connective tissue graft in conjunction with a coronally advanced flap remain as the gold standard therapy for the treatment of single gingival recession defects? A systematic review and network meta-analysis. J Periodontol. 2022;93(9):1336-1352.
  2. Chambrone L, Barootchi S, Avila-Ortiz G. Efficacy of biologics in root coverage and gingival augmentation therapy: An AAP best evidence systematic review and network meta-analysis. J Periodontol. 2022;93(12):1771-1802.
  3. Chambrone L, Tatakis DN. Long-Term Outcomes of Untreated Buccal Gingival Recessions: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Periodontol. 2016;87(7):796-808.
  4. Rios FS, et al. Incidence and progression of gingival recession over 4 years: A population-based longitudinal study. J Clin Periodontol. 2021;48(1):114-125.
  5. Suzuki S, Onose Y, Yoshino K, Takayanagi A, Kamijo H, Sugihara N. Factors associated with development of root caries in dentition without root caries experience in a 2-year cohort study in Japan. J Dent. 2020;95:103304.
  6. Heasman PA, et al. Gingival recession and root caries in the ageing population: a critical evaluation of treatments. J Clin Periodontol. 2017;44(Suppl 18):S178-S193.
  7. Costa RS, Rios FS, Moura MS, Jardim JJ, Maltz M, Haas AN. Prevalence and risk indicators of dentin hypersensitivity in adult and elderly populations from Porto Alegre, Brazil. J Periodontol. 2014;85(9):1247-1258.
  8. Antezack A, et al. Effectiveness of surgical root coverage on dentin hypersensitivity: A systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol. 2022;49(8):840-851.
  9. Rajapakse PS, McCracken GI, Gwynnett E, Steen ND, Guentsch A, Heasman PA. Does tooth brushing influence the development and progression of non-inflammatory gingival recession? A systematic review. J Clin Periodontol. 2007;34(12):1046-1061.
  10. Heasman PA, Holliday R, Bryant A, Preshaw PM. Evidence for the occurrence of gingival recession and non-carious cervical lesions as a consequence of traumatic toothbrushing. J Clin Periodontol. 2015;42(Suppl 16):S237-S255.
  11. Ranzan N, Muniz FWMG, Rösing CK. Are bristle stiffness and bristle end-shape related to adverse effects on soft tissues during toothbrushing? A systematic review. Int Dent J. 2019;69(3):171-182.
  12. Cairo F, Cortellini P, Tonetti M, Nieri M, Mervelt J, Cincinelli S, Pini-Prato G. Coronally advanced flap with and without connective tissue graft for the treatment of single maxillary gingival recession with loss of inter-dental attachment. A randomized controlled clinical trial. J Clin Periodontol. 2012;39(8):760-768.
  13. Pini Prato GP, Franceschi D, Cortellini P, Chambrone L. Long-term evaluation (20 years) of the outcomes of subepithelial connective tissue graft plus coronally advanced flap in the treatment of maxillary single recession-type defects. J Periodontol. 2018;89(11):1290-1299.
  14. Cairo F, Nieri M, Cincinelli S, Mervelt J, Pagliaro U. The interproximal clinical attachment level to classify gingival recessions and predict root coverage outcomes: an explorative and reliability study. J Clin Periodontol. 2011;38(7):661-666.
※根面被覆術(結合組織移植術)は自由診療(保険適用外)です。当院の費用は1ブロックあたり100,000円(税抜)です。主なリスク・副作用は、術後の痛み・腫れ・感染、移植片採取部位の一時的な不快感、完全な被覆が得られない場合があること、経過とともに一部後戻りする場合があることです。治療の効果および経過には個人差があり、結果を保証するものではありません。詳しくは料金表をご覧ください。