こんにちは!Hatch Dental Clinic 院長の平沼です。
「セラミックを入れたけど、その歯だけ白すぎて浮いて見える」
「差し歯の色が、隣の歯と合っていない気がする」
——このご相談、けっこう多いです。
前歯の色は、技工所の作業台の上では決まりません。患者様のお口の中で決まります。今回は、なぜ色が合わないことが起きるのか。そして、それを防ぐために僕たちが何をしているのかを、実際の症例写真とあわせてお話しします。
- 色はシェードガイドの番号だけでは決まりません。隣に残っている天然歯との関係で、見え方が変わります
- だから仮歯で形を決め、試適(トライイン)で色を確かめます。接着してしまう前が、最後の調整のチャンスです
- 合わなければ、作り直します。今回の症例では、納得のいくところまで作り直しを繰り返しました
- セラミックそのものの信頼性は高いです。前歯部を含む単冠の5年生存率は96.6%と報告されています1)
実際の症例:50代女性・前歯4本のオールセラミック
もともと当院にメンテナンスで通われていた患者様です。「前歯の被せ物をキレイにしたい」というご希望を受けて、治療を始めました。
色が周りの歯と合っておらず、被せ物との境目のラインも揃っていません。歯ぐきの手術や矯正までは必要のない、比較的シンプルなケースです。
患者様:50代・女性
主訴:前歯の被せ物をキレイにしたい
治療内容:右上1・2、左上1・2の計4本のオールセラミッククラウン
歯科技工士:牧絵(DL-C)
治療期間:10ヶ月
費用:649,000円(税込/税抜590,000円)
主なリスク・副作用:支台歯(土台となる歯)の切削が必要なこと、治療中の一時的な知覚過敏、セラミックの破折・欠け・脱離、支台歯の二次う蝕、歯髄への影響、将来的な歯ぐきの退縮により被せ物との境目が見えてくる可能性。
この治療は自由診療(保険適用外)です。治療期間および結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。
※費用は治療当時のものです。現在の料金は料金表をご覧ください。
なぜ「色が合わない」が起きるのか
①両隣に、天然の歯が残っているから
今回作り直したのは前歯4本だけです。つまりその両隣には天然歯が残っています。
ここが難しいところで、少し白すぎても、少し暗すぎても、被せ物だけが浮いて見えます。しかも見比べる相手がすぐ隣にいるので、わずかな差でも気づかれてしまう。
逆に、前歯を10本まとめて作り直すなら、全体で色を揃えられるので調整はずっと楽になります。「4本だけ」のほうが難しいというのは、意外に思われるかもしれません。
②シェード選びは、思っている以上に主観的
歯の色は、シェードガイドという見本と見比べて選びます。ただ、この作業は術者の目に頼っています。
照明の色、周りの壁の色、その日の目の疲れ、経験の差。こうした条件で選ぶ番号は変わります。同じ歯を見ても、人によって、時間によって、違う番号を選ぶことがある。これは技術の優劣というより、視覚という仕組みの限界です。
さらにやっかいなのがメタメリズムという現象です。ある照明の下では同じ色に見えるのに、別の照明の下では違って見える。診療室の光では合っていたのに、外に出たら浮いて見えた——ということが起こり得ます。
③模型の上と、口の中は違う
技工士さんは石膏模型の上で被せ物を作ります。でも模型は白い石膏です。実際のお口の中は、内側が暗く、唇や歯ぐきの赤みがあり、隣の歯からの光の透け方もある。
この違いは意外と大きくて、模型の上で完璧に見えたものが、口の中に入れた瞬間に印象が変わることがあります。
仮歯(プロビジョナル)で、まず形を決める
色の話をする前に、まず形です。
前歯は、わずかな長さや幅の違いで印象が変わります。1mm長いだけで印象は変わりますし、左右で0.5mmずれているだけでも気づく方はいます。
完成した被せ物を接着してからでは、やり直すのに費用も時間もかかります。だから仮歯(プロビジョナルレストレーション)の段階で形を決めきります。
仮歯は「最終補綴物ができるまでのつなぎ」ではありません。完成形の予行演習です。ここで決まった形を、そのまま最終的な被せ物へ写していきます。
試適(トライイン)——接着する前の、最後のチャンス
形が決まったら、セラミックを製作します。そして接着する前に、実際にお口の中に試しに入れて確認します。これを試適(トライイン)と呼びます。
ここで見ているのは、色だけではありません。
- 隣の天然歯と並べたときに浮いていないか
- 明るさ(明度)が合っているか——実は色味より、この明るさのズレのほうが目立ちます
- 透明感があるか。天然歯は先端がわずかに透けています
- 光を当てたときの反射の仕方
- 笑ったときに見える範囲での見え方
接着してしまうと、外すには削り取るしかありません。試適は、やり直しがきく最後のタイミングです。だからここは時間をかけます。
合わなければ、作り直す
今回の症例では、この試適で気になる点があり、技工士に戻して作り直しました。
試適して確認し、技工士に戻して調整し、また試適する。患者様ご本人にも鏡で見ていただきながら、ご納得いただけるところまで続けました。
正直に言えば、一度で決まることのほうが少ないと思っています。特に前歯の少数歯を作り直す場合は。
ここで妥協して装着してしまうと、あとから「やっぱり気になる」となったときに、また削って作り直すことになります。それは患者様にとっても、歯にとっても損です。
こうして作り直しができるのは、技工士と直接やりとりできる体制があるからでもあります。外注で顔の見えないやりとりだと、「もう一回お願いします」が言いにくい。ここは医院の体制の問題です。
セラミックそのものは、どのくらいもつのか
「見た目はいいけど、割れやすいのでは」と聞かれることがあります。データを見てみましょう。
2015年に発表された系統的レビュー(67の研究、金属焼付冠4,663本・オールセラミック冠9,434本を対象)では、5年生存率が次のように報告されています1)。
- 金属焼付冠(メタルボンド):94.7%
- ガラスセラミック系(ロイサイト/リチウムジシリケート):96.6%
- アルミナ(高密度焼結):96.0%
- ジルコニア(高密度焼結):92.1%
つまりオールセラミックの多くは、金属を使った被せ物と同等以上に保っているということです。リチウムジシリケート単冠だけを対象にした別の系統的レビューでは、5年累積生存率97.8%、10年でも96.7%と報告されています2)。
ただしこのレビューには、注意すべき指摘も含まれています。ジルコニア冠は、表面に盛ったセラミックが欠けるトラブルが金属焼付冠より多く、脱離も有意に多いと報告されました。また強度の低い長石系セラミックは臼歯部で生存率が有意に低く、前歯部に限定すべきとされています1)。
「セラミック」とひとくくりにされがちですが、材料によって向き不向きがあります。どこの歯に何を使うかは、見た目だけでなく力のかかり方から決めるべきものです。
色と同じくらい、「削る量」も考えてほしい
ここまで色の話をしてきましたが、被せ物のやり直しでもう一つ大事なのが削る量です。
歯を削れば、それだけ歯髄(神経)に近づきます。削るときの熱でダメージを与えれば、あとから痛みが出たり、神経の処置が必要になったりします。当院では回転数を抑えた器具を使い、削った直後の歯面をコーティングして保護するIDS(Immediate Dentin Sealing)という処置を行っています。
IDSについては、系統的レビューとメタアナリシスで接着強さを有意に高めることが示されています3)。装着直後だけでなく、時間が経ったあとの接着強さも高く保たれると報告されています。ただしこれは実験室での研究(in vitro)をまとめたもので、「何年もつか」を直接示したデータではない、という点は正直にお伝えしておきます。
そしてもう一つ。歯並びにガタつきがある場合は、被せ物だけで揃えようとしないほうがいいです。ガタついたまま見た目を揃えようとすると、歯を大きく削って位置をごまかすことになります。先に部分矯正で歯を動かしてから被せれば、削る量はずっと少なくて済みます。
この考え方で治療した症例も、審美歯科治療のページ(症例②)でご紹介しています。
よくある質問
入れたセラミックの色が気に入らない場合、作り直してもらえますか?
接着する前の試適(トライイン)の段階であれば、作り直しは可能です。当院ではこの段階で患者様ご本人にも鏡で確認していただき、気になる点があれば技工士に戻して調整します。ただし一度接着してしまうと、外すには削り取る必要があります。だからこそ試適の段階で時間をかけています。
前歯を1本だけセラミックにしても、色は合いますか?
1本だけというのは、実はもっとも難しいケースです。両隣に天然歯があるため、わずかな明るさや透明感の差でも浮いて見えてしまいます。合わせられないわけではありませんが、仮歯と試適を丁寧に行う前提とお考えください。ご希望をうかがったうえで、どこまで近づけられるかを事前にご説明します。
仮歯の期間はどのくらい必要ですか?
症例によって異なります。形と歯ぐきとの調和が決まるまで調整を重ねるため、数週間から数ヶ月かかることもあります。今回ご紹介した症例では、治療期間全体で10ヶ月でした。仮歯は完成形の予行演習ですので、ここを急いでも良い結果にはつながりません。
セラミックは割れませんか?
絶対に割れないものではありません。系統的レビューでは、オールセラミック単冠の5年生存率は材料によって92〜97%程度と報告されており、金属を使った被せ物と同等以上とされています。ただしジルコニア冠は表面のセラミックが欠けるトラブルが比較的多く、強度の低い長石系セラミックは臼歯部には向きません。どこの歯に何を使うかが重要です。
保険の被せ物とは何が違いますか?
使える材料と、かけられる工程が違います。保険では材料が定められており、試適を繰り返して色を追い込むといった工程も想定されていません。自由診療のセラミックは材料の選択肢が広く、色や形の再現性、歯ぐきとの適合性を追求できます。費用は料金表をご覧ください。
歯を削る量はどのくらいですか?
被せ物の種類と、もとの歯の状態によって変わります。当院では回転数を抑えた器具を使い、削った直後の歯面を保護するIDSという処置を行って、歯髄への負担を抑えています。また歯並びにガタつきがある場合は、被せ物だけで揃えようとせず、先に部分矯正で歯を動かすことで削る量を減らせることがあります。
参考文献
- Sailer I, Makarov NA, Thoma DS, Zwahlen M, Pjetursson BE. All-ceramic or metal-ceramic tooth-supported fixed dental prostheses (FDPs)? A systematic review of the survival and complication rates. Part I: Single crowns (SCs). Dent Mater. 2015;31(6):603-623.
- Pieger S, Salman A, Bidra AS. Clinical outcomes of lithium disilicate single crowns and partial fixed dental prostheses: a systematic review. J Prosthet Dent. 2014;112(1):22-30.
- Hardan L, Devoto W, Bourgi R, Cuevas-Suárez CE, Lukomska-Szymanska M, Fernández-Barrera MÁ, Cornejo-Ríos E, Monteiro P, Zarow M, Jakubowicz N, Mancino D, Haikel Y, Kharouf N. Immediate Dentin Sealing for Adhesive Cementation of Indirect Restorations: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gels. 2022;8(3):175.(実験室研究のメタアナリシス)