マウスピース(スプリント)について
- Hatch Dental Clinic
- 2021年5月6日
- 読了時間: 4分
更新日:2023年10月31日
コロナ禍の中、みなさまいかがお過ごしでしょうか。 次第にワクチン接種も始まりましたので、収束へ向かうことを願っています。 私もワクチンの接種を近日に控えておりますが、打ったあとは痛くて腕が上げられない、触るだけで激痛、などという話を知り合いに聞いて怯えております。 副反応についても様々に言われておりますが、私自身は副反応否定派でありますのでその点は心配しておりません。 かつてのHPVワクチンのような悲劇が繰り返されないことを願っています。
さて今回は、マウスピース(スプリント)のお話をしようかと思います。 と言いますのも、何気なく小学校時代からの友人と話をしていた際に、夜間の歯軋り用マウスピースを作ったという話を聞いたのですが、それがソフトタイプ(シリコン製)のものと言っていたので「おや?」と思ったためです。 単純なようで奥の深いマウスピースについてお話させていただきます。 尚、個人的な見解も含まれますのでご承知ください。
ご存知の通り、マウスピースには大きく分けて2種類あります。
シリコン製のソフトタイプ
レジン製のハードタイプ
この2タイプです。 その役割としては、ソフトタイプは主にスポーツ用として用います。アメフト、ラグビー、ボクシングやその他各種の様々なスポーツで用いられます。 スポーツでは、瞬発的に強い力がかかる時にグッと食いしばります。 その際に歯牙を損傷してしまう(欠けたりすり減ったり)ため保護する役割と、より力を入れて食いしばることが出来るように、という役割があります。 そのため、スポーツ用は柔らかい素材です。 力を入れやすくできているわけです。
一方で、ハードタイプは主に夜間の就寝時に歯軋りによる歯の損傷を防止するために用います。 この時なぜソフトタイプのものが適していないのか、ということについて簡単にご説明いたします。
前述の通り、ソフトタイプというのは力を入れやすくできております。 ついグッと力を入れて噛みたくなってしまいますでしょう。 睡眠時は無意識となるので、食いしばった時にブレーキが効かず、かかる力は覚醒時の何倍にもなると言われています。 ソフトタイプで噛みやすい状況を作るとそれに拍車がかかり、歯そのものは守られたとしても口腔周囲筋や顎関節に多大な負担をかけます。 その結果、朝起きた時に顎の周りが重い感じがする、肩凝りや首凝りがひどくなる、顎関節症になる、などの問題が発生する可能性があります。
そのため、睡眠時にはスタビライゼーションスプリントというものを用います。 もちろんハードタイプです。 以下、日本顎関節学会における顎関節症治療ガイドライン一部抜粋です。
咀嚼筋痛を主訴とする顎関節症患者において、スタビライゼーションスプリントは、有効か?
咀嚼筋痛を主訴とする顎関節症患者において、適応症・治療 目的・治療による害や負担・他治療の可能性も含めて十分なインフォームドコンセントを行うならば、上顎型スタビライゼーションスプリント治療を行っても良い (GRADE 2C:弱い推奨 / “低”の質のエビデンス)。 論文検索:2010年3月31日まで
スタビライゼーションスプリントは、上顎型・薄型・全歯接触型・ハードアクリル型であり、実際のデモスプリントをみせること。
スタビライゼーションスプリントによって、違和感・口の渇き・不眠・逆に朝の 疼痛増強などの可能性があることを説明すること。
日中を含めた、長時間の使用を避けるように説明すること
顎関節症の話になると脱線してしまうので今回は避けますが、学会的にもエビデンスレベルでハードタイプ(スタビライゼーション型)を推奨しています。 また、ただ硬ければいいという話でもなく、歯が当たる面(咬合面)に適切な噛み合わせを付与しなければいけません。 実際に口の中に装着し、噛み合わせを確認してレジン(樹脂)を盛り足したり削ったりしながら細かく調整していきます。 そこまでやってようやく夜間用のマウスピースの完成です。 患者さんの顎関節や口腔周囲筋に症状がある場合などは、噛み合わせの様式を変えたりもします。 ただ、ソフトタイプよりも違和感はありますし、ハードタイプが合わない患者さんもいらっしゃいます。
私自身も歯軋りをするので、学生の頃に近所の歯科医院で相談し、マウスピースを作ってもらったことがあります。 その時に作ってもらったものが、歯形をとってソフトタイプのシートをガシャンとプレスしただけのペラペラなものでした。 保険適応とはいえ、5000円ほどかかったにもかかわらず一晩で穴が開きました。 今思えば、なんていい加減なものを作られたのか、と残念な気持ちになります。
はっきりとこれが正しい!という風に言い切ることはできませんが、論文などのエビデンスがあるのならば、そういった医学的根拠に則った方法で治療を行うべきです。 そして歯科医師はそういったことを学ぶべきでしょう。
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