こんにちは、Hatch Dental Clinic 院長の平沼です。
「最近、歯が長くなった気がする」「歯の根元がしみる」「鏡を見たら根元が黒っぽい」——そんな変化に気づいたら、それは歯肉退縮(しにくたいしゅく)かもしれません。
実は珍しいものではなく、1mm以上の歯肉退縮は成人の半数以上にみられるとされています。ただ「よくあること」で片付けてはいけない理由があります。
このテーマは僕自身がずっと気になっていて、かなりの数の論文を読み込んできました。その内容を、できるだけ噛み砕いてお話しします。
- 一度下がった歯ぐきは、自然には戻りません。ただし「これ以上進ませない」ことは十分できます
- 原因の多くは「強すぎるブラッシング」と「歯周病」。この2つを止めるのが最優先です
- 歯ブラシはやわらかめ、ペンを持つように軽く。力を入れても汚れは落ちません
- 根元がV字にえぐれる楔状欠損(くさびじょうけっそん)は、原因が1つではありません。「食いしばりのせい」と決めつけないことが大切です
- 進行した場合も、知覚過敏の処置・修復・歯肉移植など打つ手はあります
- 前より歯が長くなった気がする
- 冷たいものや風がしみる
- 歯の根元が黄色っぽい・黒ずんで見える
- 歯と歯の間に隙間ができて、食べ物が挟まりやすい
- 歯の根元を触ると段差やへこみがある
- 歯磨きのときに歯ぐきがチクチク痛む
歯肉退縮とは何か
歯肉退縮とは、歯ぐき(歯肉)が歯の根元方向に下がってしまう状態を指します。英語では gingival recession といいます。
健康な歯ぐきは、歯の根元をしっかり覆って保護しています。ところが何らかの理由でこの組織が下がると、本来は隠れているはずの歯根が露出してしまいます。
その結果、次のような症状が現れます。
- 歯が長く見える
- 冷たいものがしみる(知覚過敏)
- 歯の根元が黄色〜黒っぽく見える
- 歯と歯の間に隙間ができる
頻度としては決して珍しくなく、1mm以上の退縮は成人の半数以上に認められると報告されています。特に下の前歯に多く(約43%)、上の歯より下の歯のほうが起こりやすい傾向があります。
どうして歯ぐきが下がるのか|4つの原因
歯肉退縮の原因は1つではなく、複数の要因が重なって起こります。大きく分けると次の4つです。
| 原因 | 具体例 | 対処できるか |
|---|---|---|
| 機械的な刺激 | 強すぎるブラッシング、硬い歯ブラシ、横磨き、歯ぎしり・食いしばり | ◎ 自分で変えられる |
| 炎症 | 歯周病、プラーク・歯石の蓄積 | ◎ 治療で改善できる |
| 解剖学的な条件 | もともと歯ぐきが薄い、歯が歯列から飛び出している、小帯の付着位置 | △ 体質的な要素が大きい |
| 生活習慣・加齢 | 喫煙、加齢変化 | ○ 禁煙は効果あり |
1. 強すぎるブラッシングと、歯にかかる力
いちばん多い原因がこれです。「強く磨くほどきれいになる」というのは誤解で、強いブラッシング圧は歯ぐきを傷つけ、長期的に退縮を引き起こします。
硬い毛の歯ブラシほど歯肉の傷や退縮が起こりやすいことは、システマティックレビューでも示されています。歯ブラシ選びについてはおすすめ歯ブラシランキングの記事で詳しく書いています。
また、歯ぎしりや食いしばりによる過剰な力(咬合性外傷)も、歯周組織にダメージを与える一因になります。
2. 歯周病(炎症)
プラークや歯石の蓄積によって起こる歯周病は、歯肉退縮の大きな要因です。炎症が続くと歯を支える組織が破壊され、結果として歯ぐきが後退していきます。
この場合、歯ぐきが下がること自体より「その裏で骨が失われていること」のほうが深刻です。歯肉退縮に気づいたら、歯周病の検査を受けることをおすすめします。
3. 歯ぐきの厚み・歯並び
生まれつき歯ぐきが薄い方(thin biotype)は、少しの刺激でも歯肉が下がりやすい傾向があります。また、歯列から前に飛び出している歯は、その部分の骨や歯ぐきが薄いため、局所的な退縮が起こりやすくなります。
矯正治療で歯を動かす際にも、この条件は考慮する必要があります。
4. 喫煙・加齢
喫煙は歯ぐきへの血流を悪化させ、組織の修復力を下げます。歯肉移植などの外科治療を行った場合でも、喫煙者は覆える量が平均で約0.5mm少なくなると報告されており、治療成績にも影響します。
加齢によって少しずつ進行することもありますが、「歳だから仕方ない」で済ませられるケースばかりではありません。
放置するとどうなるか
歯肉退縮は一見すると見た目の問題に思えますが、それだけではありません。
知覚過敏で生活の質が下がる
歯根の表面にはエナメル質がなく、刺激に弱い象牙質がむき出しになります。そのため冷たいものがしみたり、歯磨きのたびに痛みを感じたりします。「しみるから磨けない」→「磨けないから汚れが溜まる」という悪循環に入りやすいのが厄介なところです。
むし歯・歯周病のリスクが上がる
露出した歯根はエナメル質に覆われていないぶんむし歯になりやすく、しかも凹凸があるためプラークも溜まりやすくなります。さらなる炎症や歯周病の悪化につながります。
見た目の問題
特に前歯の退縮は目立ちやすく、笑ったときの印象に影響します。
「歯が削れてる?」楔状欠損(くさび状欠損)とは
歯肉退縮とセットでよく見られるのが、歯の根元がV字型にえぐれる「楔状欠損」です。専門的には非う蝕性歯頸部歯質欠損(NCCL)と呼ばれます。
原因は「1つ」ではありません
ここは丁寧に書いておきたいところです。楔状欠損の原因としては、次の3つが挙げられます。
- 摩耗(アブレーション): 強いブラッシングや研磨剤による物理的なすり減り
- 酸蝕(エロージョン): 炭酸飲料・柑橘類・胃酸の逆流などによる化学的な溶解
- アブフラクション: 食いしばりなどの咬合力が歯の根元に集中し、微細な破壊が起こるという説
このうち3つ目のアブフラクション説は、いまも議論が続いています。69件の研究をまとめたシステマティックレビューでは、その81%が咬合力と楔状欠損の関連を報告している一方で、「咬合力だけで歯質が失われるほどの引張応力が生じるか」については専門家の間で結論が出ていません。
臨床的に大事なのは、原因を1つに決めつけないことだと思っています。「食いしばりのせいですね」と言われてナイトガードだけ作っても、実際はブラッシング圧が主因だった、というケースは少なくありません。逆もまた然りです。
当院では、欠損の形・部位・左右差・生活習慣・咬合状態を総合的に見て、その方にとって何が主因かを見極めるようにしています。
歯肉退縮と併発しやすい
歯ぐきが下がり、かつ根元が削れている——この2つは原因が重なるため、併発することがよくあります。両方あると、審美的にも機能的にも影響が大きくなります。
予防と対策|今日からできること
正しいブラッシング
- 歯ブラシはやわらかめを選ぶ
- 持ち方は「ペンを持つように」軽く。グーで握ると力が入りすぎます
- 力を入れず、小刻みに細かく動かす
- 横方向にゴシゴシは避ける
- 歯と歯ぐきの境目に、毛先を45度の角度で優しく当てる
- 研磨剤の多い歯磨き粉は控えめに
力加減が分からない方は、電動歯ブラシの圧力センサーを「力の感覚を覚えるための練習器具」として使うのも一つの方法です(電動歯ブラシの記事はこちら)。
ナイトガード(マウスピース)
夜間の歯ぎしり・食いしばりが疑われる場合は、歯科医院で型取りをして専用のナイトガードを作ります。歯と歯ぐきにかかる力を分散させることが目的です。
禁煙とストレス管理
禁煙すると歯ぐきの血流が改善し、組織の修復力が高まります。歯周治療や外科治療を予定している方には特に重要です。日中の食いしばりは自覚しにくいため、「気づいたら歯を離す」を意識するだけでも変わります。
定期的なチェック
歯肉退縮は年単位でゆっくり進むため、自分では気づきにくいのが特徴です。定期的に同じ場所を記録しておくと、進行しているかどうかが客観的に分かります。当院の予防歯科では、染め出し検査で磨き残しとブラッシング圧の癖を可視化しています。
進行してしまった場合の治療
すでに進んでしまっている場合でも、打つ手はあります。
知覚過敏への対応
フッ化物の塗布、知覚過敏用の歯磨剤、コーティング材の使用などで症状を和らげます。多くの場合、原因(強すぎるブラッシングなど)を取り除くだけでも症状は軽くなります。
楔状欠損の修復
欠損が深い場合は、コンポジットレジンで埋めます。ただし原因を取り除かないまま詰めても、また外れたり再発したりします。「詰めて終わり」ではなく、原因の特定とセットで考える処置です。
歯肉移植(根面被覆)
下がった歯ぐきを外科的に覆う方法です。上あごの内側から結合組織を採取して移植する結合組織移植術(CTG)が、現在もっとも予知性の高い方法とされています。
条件が整ったケースでは、7〜9割以上で完全に根面を覆えると報告されています。ただし、歯を支える骨や歯間の組織がどれだけ残っているかによって適応が変わるため、すべての退縮が治せるわけではありません。また喫煙は成績を下げます。
まずは進行を止めること。そのうえで、見た目や知覚過敏が問題になる場合に検討する、という順序が現実的です。
よくある質問
下がった歯ぐきは自然に元に戻りますか?
一度下がった歯ぐきが自然に元の位置まで戻ることは、ほとんど期待できません。ただし、原因を取り除けば「それ以上進行させないこと」は十分に可能です。
また、程度や部位の条件が合えば、歯肉移植(結合組織移植術など)によって外科的に覆う治療法もあります。まずは進行を止めることを優先し、そのうえで見た目や知覚過敏が問題になる場合に治療を検討する、という順序が現実的です。
歯ぐきが下がると歯が抜けやすくなりますか?
歯肉退縮そのものが直ちに抜歯につながるわけではありません。問題になるのは歯周病を併発している場合です。歯根が露出するとプラークが溜まりやすくなり、炎症が進むと歯を支える骨が失われ、将来的に歯の動揺や抜歯のリスクが高まります。歯肉退縮に気づいたら、歯周病の有無を検査で確認することが大切です。
強く磨かないと汚れが落ちないのではないですか?
力の強さと汚れ落ちは比例しません。プラークは非常に柔らかく、やわらかめの歯ブラシを歯面に「軽く当てて細かく動かす」だけで十分に落ちます。
むしろ強い力は毛先を寝かせてしまい、歯と歯ぐきの境目に毛先が届かなくなるため、清掃効率はかえって下がります。硬い毛の歯ブラシほど歯肉の傷や退縮が起こりやすいことは、システマティックレビューでも示されています。
楔状欠損は治療しないとどうなりますか?
小さいうちは経過観察で問題ないことも多いですが、深くなると知覚過敏が強くなり、さらに進行すると歯の神経に近づいたり、歯が折れやすくなったりすることがあります。
原因(ブラッシング圧・食いしばり・酸)を取り除いたうえで、必要に応じてコンポジットレジンで修復します。ただし原因を放置したまま詰めても、また外れたり再発したりします。
ナイトガードはどこで作れますか?費用はどのくらいですか?
歯科医院で型取りをして製作します。既製品ではなく、ご自身の歯型に合わせたものの方が効果的で、装着感も安定します。歯ぎしり・食いしばりの診断がつく場合は保険適用となることが多く、その場合の自己負担は数千円程度が目安です。詳しくは診察時にご説明いたします。
子どもや若い人にも歯肉退縮は起こりますか?
起こります。若年層でも、ブラッシング圧が強い方、矯正治療中の方、もともと歯ぐきが薄い方には見られます。年齢に関係なく、歯ぐきが薄い部位や歯列から飛び出している歯に生じやすい傾向があります。若いうちに気づいて磨き方を修正できれば、その後の進行を大きく抑えられます。
まとめ|歯ぐきのサインに早く気づく
歯肉退縮も楔状欠損も、「力」と「磨き方」が大きく関わっています。そして、どちらもゆっくり進むので気づきにくい。
放置すれば見た目だけでなく、知覚過敏やむし歯・歯周病を通じて歯の寿命にまで影響します。一方で、正しいケアと定期的なチェックによって、多くは予防できますし、進行も止められます。
「最近、歯ぐきが下がったかも?」「冷たいものがしみるな…」と感じたら、それは歯からのサインです。気づいた「今」が、いちばん早いタイミングです。
参考文献
- Ranzan N, Muniz FWMG, Rösing CK. Are bristle stiffness and bristle end-shape related to adverse effects on soft tissues during toothbrushing? A systematic review. International Dental Journal. 2019.
- Sarode GS, Sarode SC. Occlusal stress is involved in the formation of non-carious cervical lesions. A systematic review of abfraction. 2017.
- Nascimento GG, et al. Non-carious cervical lesions — can terminology influence our clinical assessment? British Dental Journal. 2019.
- Relationship between the gingival biotype and the results of root covering surgical procedures: A systematic review. 2022.
- Chambrone L, et al. Gingival recession treatment with connective tissue grafts in smokers and non-smokers. Journal of Periodontology. 2006.
その歯ぐき、まだ止められます
浦安駅から徒歩2分。歯肉退縮は進行を止めることが第一です。染め出し検査で磨き残しとブラッシング圧の癖を確認し、必要に応じて歯周病の検査・ナイトガード・修復処置までご提案します。
WEB予約はこちら →余談:トミカのミニ四駆にハマっています
※ここから先は歯科と関係のない雑談です。
最近、トミカのミニカー収集がマイブームです。
僕は別に車に興味があるわけでは無いです。
僕が子供の頃、コロコロコミックで連載されていた「爆走兄弟レッツ&ゴー」という漫画が流行っていたのをご存知でしょうか。
タミヤのミニ四駆を題材にした漫画です。
僕はこの漫画が大好きで、ミニ四駆でもよく遊んでいましたし、当時ミニ四駆で遊ばなかった方はいないのではないでしょうか。
そのミニ四駆、最近トミカのミニカーから出始めたんです…!
一つ試しに買ってみたところ、その精巧な造りに夢中になってしまい、集め始めてしまいました。
と言ってもまだ4つだけですけどね。
これから新しいものが追加される度に買い足していく予定です(ビークスパイダー・トライダガーZというモデルが発売予定です)。