こんにちは!Hatch Dental Clinic 院長の平沼です。
「電動歯ブラシって、結局のところ買った方がいいんですか?」——診療室でいちばんよく聞かれる質問のひとつです。
電動歯ブラシの比較記事はたくさんありますが、書き手が実際にその機種を使い込んだうえで書いているのかどうかは、読んでいてもなかなか分かりません。製品紹介に書かれている仕様が、そのまま並んでいるように見えるものもあります。
この記事では、論文で分かっていることと、僕自身が4機種を実際に使い込んだうえで感じたことの両方を、忖度なしでお話しします。使ってみないと分からないことは確かにありますし、逆に、使用感だけでは判断できないことは研究で確かめるしかありません。その両方から書いています。
メーカーから広告費をもらって書いている記事ではありませんので、良いところも微妙なところも正直に書きます。
- 電動歯ブラシは、統計的には手磨きより優秀。Cochraneレビューでプラーク11〜21%減、歯肉炎6〜11%減と報告されています
- ただし「絶対に必要」ではありません。手磨きできちんと磨けている方が、わざわざ買い替える必要はありません
- 機種選びで悩む価値はあまりない。各社の上位モデルであれば、どれを選んでも大きな差は出ません
- 当院のおすすめは「手磨きメイン+電動を週1〜2回」。電動はパワーが強く、毎日ゴシゴシ使うと歯や歯ぐきを傷めるリスクがあります
- 電動でもフロス・歯間ブラシは必須です。歯と歯の間は電動歯ブラシでは落とせません
エビデンスでみる電動歯ブラシの実力
まず、いちばん信頼性が高いとされる研究から見ていきます。
56件のランダム化比較試験(参加者5,068名)をまとめたCochraneレビュー(2014年)では、電動歯ブラシは手磨きと比べて次のような結果でした。
| 評価項目 | 1〜3か月 | 3か月以降 | エビデンスの質 |
|---|---|---|---|
| プラーク(歯垢)の減少 | 11% 減 | 21% 減 | 中程度 |
| 歯肉炎の減少 | 6% 減 | 11% 減 | 中程度 |
出典:Yaacob M, et al. Powered versus manual toothbrushing for oral health. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014.
数字だけ見ると「電動の勝ち」です。ただし、このレビューの著者たち自身が「この差が長期的な歯の健康にとってどれだけ意味を持つかは、まだはっきりしない」と結論づけている点は、正直にお伝えしておくべきだと思います。
つまり、11%というのは「平均すると」の話です。手磨きでしっかり磨けている人が電動に変えても、そこまで劇的には変わりません。逆に、磨き方に自信がない方ほど恩恵が大きい、という読み方が実態に近いと思います。
ちなみに副作用については、報告されたものはいずれも一時的・局所的なもので、深刻な有害事象は報告されていません。安全性の面では心配いらない道具です。
回転式と音波式、どちらを選ぶべきか
電動歯ブラシは大きく2種類に分かれます。
- 回転式(オシレーティング・ロータリー):丸いブラシが右回り・左回りに高速回転する。Oral-B(ブラウン)が代表格
- 音波式:普通の歯ブラシに近い形で、毛先が高速振動する。ソニッケアー、ドルツ、ハイドロソニックなど
先ほどのCochraneレビューでは、研究数が最も多く、効果が安定して確認されているのは回転式でした(27試験)。また、回転式と音波式を直接比較したメタ解析(van der Sluijs ら、2023年)や、複数の技術を比較したネットワークメタ解析(Thomassen ら、2022年)でも、プラーク除去・歯肉の炎症の両方で回転式がやや優勢という結果が出ています。
ただし——ここが大事なところですが——その差はごくわずかです。
回転式は振動が強く、「ムズムズして苦手」という方が一定数いらっしゃいます(僕もその一人です)。毎日使いたくならない機種を買っても意味がないので、「エビデンス上わずかに有利な回転式」より「自分が続けられる方」を選ぶのが正解だと考えています。
歯科医師が実際に使った4機種を比較
ここからは、僕が実際に購入・使用した4機種の話です。型番までは覚えていないものもありますし、各社とも改良が進んでいるため、現行モデルでは印象が変わっている可能性があります。その前提でお読みください。
| 機種 | 方式 | 入手先 | 特徴 | こんな方に |
|---|---|---|---|---|
| ソニッケアー Philips |
音波式 | 家電量販店 | 臨床データが豊富。タイマー・圧力センサー搭載モデルが選べる | 初めての1本を無難に選びたい方 |
| ドルツ Panasonic |
音波式 | 家電量販店 | 価格帯の幅が広く、国内サポートが手厚い | 価格を抑えたい方・国内メーカー志向の方 |
| オーラルB ブラウン |
回転式 | 家電量販店 | エビデンスの蓄積が最も厚い。反面、振動はかなり強い | しっかり磨いた実感がほしい方 |
| ハイドロソニック Curaprox |
音波式 | 歯科医院のみ | 毛が非常に柔らかい。臨床試験の公表は少なめ | 歯ぐきが下がっている方・矯正中の方 |
ソニッケアー(Philips Sonicare)
音波式のなかでは臨床データがいちばん充実しているシリーズです。上位モデルにはタイマーと圧力センサーが付いており、「つい力を入れてしまう」方には特に向いています。
手に入りやすく、替えブラシも量販店で買えるので、最初の1本としてはもっとも無難な選択肢だと思います。
ドルツ(Panasonic)
国内メーカーらしく、価格帯の選択肢が広いのが強みです。エントリーモデルから上位機種まで揃っていて、サポートも受けやすい。
使用感はソニッケアーと大きくは変わりません。正直、ブラシの形状が違うくらいの印象でした。
オーラルB(ブラウン)
唯一の回転式です。研究データの蓄積という点では、この方式が頭ひとつ抜けています。
ただ正直に書くと、メーカーさんからいただいた1本を数回使ったところで、振動が強すぎてムズムズに耐えられず、僕は使わなくなってしまいました。これは完全に慣れの問題で、平気な方はまったく平気です。実際に愛用している同業者も多くいます。
ハイドロソニック(Curaprox)
いま僕が使っているのがこれです。……といっても、単に手元にあるのがこれだけ、という理由でもあります。
特徴は毛の柔らかさ。電動歯ブラシはどうしてもパワーが強いので、毛が柔らかい設計というのは理にかなっていると思います。歯ぐきが下がっている方や矯正装置が入っている方には、選択肢として悪くありません。
一方で、他社と比べると公表されている臨床試験データは少なめです。この点は割り引いて考える必要があります。
なお歯科専売品なので家電量販店では手に入りません。当院のスタッフはタフトブラシ型のヘッドを愛用しており、僕はセンシティブブラシを週1〜2回使っています。
4機種を使ってみての率直な結論は、「このクラスの製品であれば、どれを選んでも大きな失敗はない」です。雑な言い方で恐縮ですが、機種選びに時間をかけるより、次にお話しする「使い方」の方がはるかに結果を左右します。
電動歯ブラシで失敗しないための5つの注意点
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。電動歯ブラシは、使い方を間違えると手磨きより歯を傷める道具になります。
1. 押し当てない。「軽く触れて滑らせる」だけ
いちばん多い失敗がこれです。電動歯ブラシは振動そのものが汚れを落とすので、力を入れる必要がまったくありません。
硬い毛の歯ブラシほど歯肉の傷や退縮が起こりやすいことはシステマティックレビューでも示されており、これは電動でも同じです。強い圧をかけ続けると、歯肉退縮(歯ぐきが下がる)・楔状欠損・知覚過敏の原因になります。
不安な方は、圧力センサー付きのモデルを選んでください。力が入りすぎると光やパルスで知らせてくれるので、感覚を掴む助けになります。
2. 研磨剤入りの歯磨き粉は使わない
電動の速い振動と研磨剤の組み合わせは、歯の表面を余計に削ってしまいます。低研磨または研磨剤無配合で、フッ化物入りのジェルタイプを少量使うのが安全です。
3. 長時間使わない
「ツルツルになるのが気持ちいい」からと磨きすぎるのは逆効果です。多くの機種に2分タイマーが付いていますので、それに従うのが無難です。
4. 替えブラシは1〜3か月で交換する
摩耗した歯ブラシはプラーク除去効率が落ちることが報告されています。アメリカ歯科医師会(ADA)も3〜4か月ごと、または毛先が広がった時点での交換を推奨しています。毛先が広がっていたら、期間に関係なく交換のサインです。
5. フロス・歯間ブラシは引き続き必要
電動歯ブラシでも、歯と歯の間の汚れは落とせません。むし歯も歯周病も歯間から始まることが多いので、ここは省略できないポイントです。
当院がおすすめする使い方
- 普段のブラッシングは手磨き用の歯ブラシで行う
- 電動歯ブラシは週に1〜2回、または歯のざらつきが気になったときに使う
- 使うときは優しく当てるだけ。力を入れない
- フロス・歯間ブラシは毎日続ける
僕自身、週に1〜2回しか電動を使いませんが、それで十分だと感じています。
もちろん「毎日電動歯ブラシを使わないと落ち着かない」という方が、毎日使ってはいけないという意味ではありません。その場合は、圧をかけない使い方をより徹底していただければ大丈夫です。
そして何より大切なのは、ご自身が実際に磨けているかどうかを一度確認することです。当院の予防歯科では、染め出し検査で磨き残しの傾向を可視化し、その方の歯並び・歯ぐきの状態に合わせた道具と磨き方をご提案しています。道具を新しくするより、これがいちばん確実な近道です。
電動歯ブラシが特に力を発揮する人
ここまで「必須ではない」と書いてきましたが、電動歯ブラシが決定的な意味を持つ場面もあります。
もう10年近く前、脳性麻痺の患者さんを担当していたときのことです。その方から、
「電動歯ブラシのおかげで、自分で歯磨きが出来るようになった」
というお話を伺いました。手を細かく動かすことが難しくても、当てるだけで磨ける——これは、その方にとって「誰かにやってもらう」から「自分でできる」への大きな変化でした。
メーカーさんに感謝の手紙を出そうか本気で迷うくらい、感動したのを覚えています。電動歯ブラシはこういう人のために作られたと言っても大げさではない、というのが今でも変わらない僕の気持ちです(その方の治療は大変でしたが、最後までやり遂げてお礼に日本酒を一升瓶いただいたのは良い思い出です)。
実際、研究でも視覚障害のあるお子さんへの有効性が報告されています。まとめると、次のような方には積極的におすすめできます。
- 手や指を細かく動かすのが難しい方(麻痺・関節リウマチ・加齢など)
- 視覚に障害のある方
- 矯正装置が入っていて磨きにくい方
- 介助して歯磨きをしている方(介助者の負担が減ります)
- 手磨きでどうしても磨き残しが多いと指摘される方
よくある質問
電動歯ブラシと手磨き、どちらが良いですか?
統計的には電動歯ブラシが優れています。56件の研究をまとめたCochraneレビュー(2014年)では、手磨きと比べてプラークが短期で11%、3か月以降で21%減少し、歯肉炎も6〜11%減少したと報告されています。ただしこれは「平均すると」という話で、手磨きできちんと磨けている方が電動に変える必要はありません。実際に磨けているかどうかは、歯科医院での染め出し検査で確認するのが確実です。
回転式と音波式では、どちらが効果的ですか?
研究の数が最も多く、効果が安定して確認されているのは回転式です。Cochraneレビューでも回転式が最大のエビデンスを持つとされ、回転式と音波式を直接比較したメタ解析でも回転式がやや優勢という結果が出ています。ただし差はごく小さいため、実際には「毎日無理なく続けられる機種を選ぶこと」の方が重要です。
電動歯ブラシは毎日使うべきですか?
当院では、普段のブラッシングは手磨きで行い、電動歯ブラシは週に1〜2回、または歯のざらつきが気になったときに使う方法をおすすめしています。電動歯ブラシはパワーが強く、力の加減や当て方を誤ると歯肉退縮や知覚過敏の原因になり得るためです。もちろん毎日使っても問題ありませんが、その場合は圧をかけない使い方を徹底してください。
電動歯ブラシで歯ぐきが下がることはありますか?
電動歯ブラシそのものが原因になるというより、過度な圧をかけることが問題です。硬い毛の歯ブラシほど歯肉の傷や退縮が起こりやすいことがシステマティックレビューで示されており、これは電動でも同じです。歯に押し付けず「軽く当てて滑らせる」使い方を守り、圧力センサー付きのモデルを選ぶとリスクを下げられます。
電動歯ブラシに研磨剤入りの歯磨き粉を使ってもいいですか?
おすすめしません。電動歯ブラシは振動が速く力も強いため、研磨剤入りの歯磨剤と組み合わせると歯の表面を余計に削ってしまう可能性があります。低研磨または研磨剤無配合で、フッ化物が配合されたジェルタイプの歯磨剤を少量使うのが安全です。
電動歯ブラシを使えばフロスや歯間ブラシは不要になりますか?
不要にはなりません。電動歯ブラシでも歯と歯の間の汚れは十分に落とせないため、デンタルフロスや歯間ブラシは引き続き必要です。むし歯も歯周病も歯間部から始まることが多いため、清掃器具の併用が重要になります。
替えブラシはどのくらいで交換すればいいですか?
毛先が広がる前、目安として1〜3か月ごとの交換をおすすめします。アメリカ歯科医師会(ADA)は3〜4か月、または毛先が広がった時点での交換を推奨しており、摩耗した歯ブラシはプラーク除去効率が落ちることも報告されています。毛先が広がったものはそれだけで交換のサインです。
参考文献
- Yaacob M, Worthington HV, Deacon SA, Deery C, Walmsley AD, Robinson PG, Glenny A-M. Powered versus manual toothbrushing for oral health. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 6. CD002281.
- van der Sluijs E, et al. The efficacy of an oscillating-rotating power toothbrush compared to a high-frequency sonic power toothbrush on parameters of dental plaque and gingival inflammation: A systematic review and meta-analysis. International Journal of Dental Hygiene. 2023;21(1):77-94.
- Thomassen TMJA, et al. The efficacy of powered toothbrushes: A systematic review and network meta-analysis. International Journal of Dental Hygiene. 2022.
- Ranzan N, Muniz FWMG, Rösing CK. Are bristle stiffness and bristle end-shape related to adverse effects on soft tissues during toothbrushing? A systematic review. International Dental Journal. 2019.
- Van Leeuwen MPC, et al. Toothbrush wear in relation to toothbrushing effectiveness. International Journal of Dental Hygiene. 2019.
余談:駐車場のあの車について
※ここから先は歯科と関係のない雑談です。
ついでに、歯科とは関係ない事でよく聞かれるご質問にお答えします!
『駐車場にいつも停まっている◯◯◯(高級外車)は先生のですか?』
とたまに聞かれることがありますが、、
僕の車じゃないです!
僕は車にあまりこだわりがありませんし、お恥ずかしながら僕は運転が不得手でして、大きな車は乗れないんです(そもそもそんなお金がない)。
一度大きな車を買って後悔してからは、小さい車に乗っています。
とか言って、次のブログ記事で『ベンツのGクラス買いました!』なんて更新したらすみません(そもそもそんなお金がない)。