こんにちは。Hatch Dental Clinic 院長の平沼です。
「噛み合わせを治さないと、顎関節症は治りません。矯正治療をしましょう」
——そう言われた経験のある方、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
「待った!」です。
顎関節症でお悩みの方はとても多く、治療法についても正解が定まっていないのが現状です。マウスピース、認知行動療法、ストレッチ、マッサージ、ボトックス注射、鍼、電気治療…と、さまざまな方法が提唱され、流行り廃りもありました。
そのなかで、「噛み合わせが原因だから矯正で治す」という考え方は、近年の文献では支持されにくくなっています。その理由を、順を追ってお話しします。
- 咬合(噛み合わせ)が顎関節症の主要因である可能性は低いと、近年のシステマティックレビューで報告されています
- 1日のうち歯が接触している時間は、わずか10〜15分。本来それ以外は上下の歯が2〜3mm離れているのが正常です
- 問題になるのはTCH(歯列接触癖)——無意識に歯を接触させ続ける癖です。これが顎周りの筋肉に持続的な負担をかけます
- 治療は可逆的で侵襲の少ない方法から。いきなり矯正治療や被せ物のやり直しをするべきではありません
- スプリント(マウスピース)が無効になったわけではありません。メタ解析では運動療法とほぼ同等の効果と報告されています。要は使いどころです
「噛み合わせが悪いから顎も悪い」は本当か
「噛み合わせが悪いから、顎も悪くなっている。だから矯正治療や被せ物のやり直しで噛み合わせを改善する必要がある」——こうした説明を耳にすることがあります。
ですが、近年の研究では、咬合と顎関節症の関連は否定的に評価されています。
咬合因子と顎関節症の関連を検討した研究を網羅的に評価。タイトルが示すとおり、「咬合が顎関節症の原因である」という考え方の時代の終わりを問う内容。
咬合が顎関節症の発症における主要因となる可能性は「低い〜非常に低い」と結論。因果関係を示す質の高い一次研究も不足しているとしている。一方で、ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)と顎関節症の症状には相関が認められた。
ここが重要なところです。「噛み合わせ」ではなく「歯にかかる力の習慣」のほうが問題になっている、ということです。
1日のうち、歯が接触している時間はどのくらい?
そもそも、上下の歯が接触している時間はどのくらいだと思いますか。
これは有名な話なのでご存知の方もいるかもしれません。正解は——
1日およそ10〜15分です。
食事のときや、飲み込むときに、ふと接触している程度。それだけです。
この程度の時間で、顎関節にそこまでの負担がかかるでしょうか。当然「No」です。
では、痛みなどの症状が出る方は、なぜなのでしょうか。
答えはシンプルです。単純に、通常より歯と歯が触れ合っている時間が長いからです。
TCH(歯列接触癖)という本当の犯人
上下の歯を無意識に接触させ続けてしまう癖を、「Tooth Contacting Habit(TCH)=歯列接触癖」と呼びます。これは正常な状態ではありません。
強く噛みしめていなくても構いません。ただ触れているだけで、顎周りの筋肉は収縮し続けます。結果として筋肉痛のような症状を引き起こす——これが最も多いタイプの顎関節症です。
- パソコン作業や書類仕事に集中しているとき
- スマートフォンを見ているとき
- 満員電車の中
- 育児や介護をしているとき
- 運転中、特に渋滞や慣れない道で
- スポーツや筋トレの最中
- 眠っているとき(歯ぎしり・食いしばり)
- 「噛み合わせが気になる」と意識して、つい噛んで確認してしまう
最後の項目は特に要注意です。噛み合わせを気にするあまり、確認のために歯を接触させる回数が増えてしまう——これは臨床でもよく見かけるパターンです。
正常な状態は「歯が触れていない」こと
まずは、正常な状態を体で覚えることから始めてみてください。
上下の歯の間には、本来2〜3mmのすき間があります。これを安静空隙(あんせいくうげき)といいます。唇は閉じていて、舌は上あごについていて、歯は触れていない。これがリラックスした状態です。
やり方は難しくありません。
- パソコンのモニターや洗面所の鏡など、目に入る場所に「歯を離す」とメモを貼る
- 気づいたら、息を吐きながら口を軽く開けて力を抜く
- これを1日に何度も繰り返す
地味ですが、この行動療法だけで症状が軽くなる方は少なくありません。道具も費用もかかりません。
なぜ「筋肉へのアプローチ」が中心になってきたのか
近年行われている治療の多くは、筋肉に負担をかけないようにする、あるいは筋肉の緊張をほぐすという方向性です。
理由は、ここまで読んでいただければお分かりかと思います。簡単に言ってしまえば、
「噛み合わせを矯正やスプリントで改善させても治らないのだから、筋肉にアプローチしよう」
ということです。実際、日本国内でもスプリントを一切使用せず、マッサージとストレッチのみで治療にあたっている大学病院があります。それくらい、考え方は変わってきています。
一昔前は「顎関節症ですね。ではマウスピースを作りましょう」と言われることが多かったと思いますが、今はもう違うのです。(……確かに、経営的には作ったほうがいいのでしょうけれど)
では、マウスピース(スプリント)は要らないのか
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。スプリントを完全に否定するつもりはまったくありません。
実際、痛みを伴う顎関節症に対してスプリント療法と運動療法を比較したメタ解析では、こう報告されています。
疼痛の軽減において運動療法がスプリント療法より優れているとはいえず、開口量や側方運動などの機能面でも両者の効果は同等だった。ただし、両者を明確に区別できる質の高いエビデンスは得られていないと結論。
つまり「スプリントが効かない」のではなく、「スプリントでなければならない理由がなくなった」というのが正確なところです。同じ効果なら、費用も手間もかからず、後戻りできる方法から始めるほうが合理的——それだけの話です。
一方で、マウスピースが必要な場面は今でもあります。特に夜間の歯ぎしり・食いしばりから歯そのものを守る目的では、有効な選択肢です。歯肉退縮や楔状欠損の予防という意味でも役立ちます。
私も今でもマウスピースを作る機会は多くあります。要は使いどころで、その使いどころが最近は少し減った、というだけのことです。
まとめ
顎関節症は、多くの要因が重なって生じるものです。だからこそ「これさえやれば治る」という単一の治療法は存在しません。
ただ、順序ははっきりしています。
- 1. まず、TCHに気づいて修正する(費用ゼロ・後戻り可能)
- 2. 次に、筋肉へのアプローチ(ストレッチ・マッサージ・運動療法)
- 3. 必要に応じてスプリント(特に夜間の歯ぎしり対策として)
- 4. 矯正治療や補綴のやり直しは、顎関節症の治療目的としては慎重に
後戻りできない治療を、最初に選ばない。これが顎関節症に向き合ううえで、いちばん大切な原則だと考えています。
よくある質問
顎関節症は噛み合わせが原因ですか?矯正治療をすれば治りますか?
近年のシステマティックレビューでは、咬合(噛み合わせ)が顎関節症の主要な原因となる可能性は低い、とされています。因果関係を示す質の高い研究も不足しています。
そのため「噛み合わせを治さないと治らないので矯正治療をしましょう」という説明は、現在の文献状況からは慎重に受け止めるべきです。顎関節症の治療を目的として、いきなり矯正治療や被せ物のやり直しを行うことは、当院では原則としておすすめしていません。まずは可逆的(元に戻せる)で侵襲の少ない方法から始めるのが原則です。
1日のうち、歯と歯が接触している時間はどのくらいですか?
食事や飲み込みの際などを合わせて、1日およそ10〜15分程度とされています。それ以外の時間、上下の歯は2〜3mm程度離れているのが安静な状態(安静空隙)です。
裏を返すと、それ以上の時間ずっと歯が触れ合っている状態は正常ではありません。この「歯を接触させ続ける癖」を歯列接触癖(TCH)と呼びます。
TCH(歯列接触癖)とは何ですか?どうすれば治りますか?
Tooth Contacting Habit の略で、上下の歯を無意識に長時間接触させ続けてしまう癖です。強く噛みしめていなくても、触れているだけで顎周りの筋肉には持続的な負担がかかります。
治療の基本は「気づいて離す」ことの反復です。パソコンや洗面所など目に入る場所に「歯を離す」とメモを貼り、気づいたら口を軽く開けて力を抜く。この行動療法だけで症状が軽くなる方も少なくありません。
顎関節症にマウスピース(スプリント)は必要ですか?
症例によります。かつては「顎関節症ならまずスプリント」という流れが一般的でしたが、現在は行動療法や運動療法など、より侵襲の少ない方法から始めるのが基本になっています。
ただしスプリントが無効になったわけではありません。痛みを伴う顎関節症に対して、スプリント療法と運動療法の効果を比較したメタ解析では、両者の効果はほぼ同等で、優劣を明確に示す質の高いエビデンスは得られていないと報告されています。特に夜間の歯ぎしり・食いしばりから歯を守る目的では、スプリントは有効な選択肢です。
顎が痛いとき、まず何をすればいいですか?
まず、日中に歯を接触させていないか意識してみてください。そのうえで、硬いものや大きく口を開ける食事を避け、痛む側の顎に負担をかけないようにします。
温めると楽になる方が多いですが、急に強い痛みが出た直後は冷やしたほうが良い場合もあります。開口障害(口が開かない)、耳の前の強い痛み、頭痛や首・肩の症状を伴う場合は、自己判断せずに歯科を受診してください。
顎関節症は自然に治りますか?
軽度であれば、負担となっている癖を修正することで自然に改善していくことがあります。一方で、原因となる癖が続いていると症状も続きます。
顎関節症は多くの要因が重なって生じるため、単一の治療で解決するものではありません。まずは可逆的な方法から始め、経過を見ながら判断していくのが現実的です。
参考文献
- Manfredini D, Lombardo L, Siciliani G. Temporomandibular disorders and dental occlusion. A systematic review of association studies: end of an era? J Oral Rehabil. 2017;44(11):908-923.
- Relationship Between Occlusal Factors and Temporomandibular Disorders: A Systematic Literature Review. Cureus. 2024.
- Zhang L, et al. Effectiveness of exercise therapy versus occlusal splint therapy for the treatment of painful temporomandibular disorders: a systematic review and meta-analysis. Ann Palliat Med. 2021.
- Occlusion and Temporomandibular Disorders: A Scoping Review. 2025.
「矯正しないと顎は治らない」と言われて、迷っていませんか?
浦安駅から徒歩2分。後戻りできない治療を選ぶ前に、まずは癖の確認と可逆的なアプローチから。セカンドオピニオンだけのご来院でも構いません。
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※ここから先は歯科と関係のない雑談です。
年末年始で、自分へのご褒美として、テレビ用のスピーカーを購入いたしました。
サウンドバーという棒状の物です。私が買ったものはサブウーファー(重低音が出るやつ)つきのものです。
家電量販店の、スピーカーが多く置いてあるブースで、様々なスピーカーの音を聴き比べる、という体験を初めていたしました。
今まで、あの部屋は恐ろしいところだと思っていました。入ってみると店員さんも親切で、気付けば長時間居座っておりました。
本当は5.1chのサラウンドスピーカーが欲しかったのですが高すぎて断念し、エントリーモデルに毛が生えた程度の物を購入して意気揚々と帰宅。
繋いで音楽や映画などを観てみると、本当に衝撃でした。
映画館でした。
これはかなり満足度の高い買い物でしたので、ぜひ皆さまにもオススメいたします。
実際にいろいろなスピーカーを聴き比べて、違いが思いのほかハッキリとしていたので驚きました。ですが飲食物と同じで、少しの違いであれば横に並べて比べてみないと、違いは分からないのかもしれませんけどね。