こんにちは、Hatch Dental Clinic歯科医師の平沼です。今日は、とても聞かれることの多い『自費と保険の根管治療、なにが違うのか?』という点についてお答えします。
近年、患者様の歯に対する意識の高まりとともに、精密根管治療(一般的に自費の根管治療を意味します)を求める方が増え、「抜歯してインプラント」という選択肢から、なるべく歯を残す方向へと時代がシフトしています。根管治療によって歯を残す治療が浸透するにつれて、歯の中の神経(歯髄)まで保存するニーズも高まり、より保存的な治療が求められるようになりました。それに伴って、精密根管治療を行う歯科医院も急増したように思います(詳しくは『マイクロスコープで治療すれば、全部「精密根管治療」なのか?』もご覧ください)。
しかし、精密根管治療が良いということはわかっても、保険と何が違うのかをはっきり理解している方は少ないのではないでしょうか。そこで今回は、当院における保険の根管治療と自費の根管治療(精密根管治療・マイクロエンドなど呼び方は色々ありますが)の違いについて、詳しくご説明します。
保険と精密根管治療の違い早見表
まずは表で全体像を示し、各項目の詳細を後述していきます。
| 保険の根管治療 | 精密根管治療 | |
|---|---|---|
| CTの撮影 | 撮影できる症例が限られる | 必ず撮影 |
| マイクロスコープの使用 | 必要に応じて使用 | 必ず使用 |
| マイクロスコープ専用ツールの使用 | 必要に応じて使用 | 必ず使用 |
| ラバーダムの使用 | 必要に応じて使用 | 必ず使用 |
| 薬液 | 組織への為害性が低いものを使用 | 最善の薬液を使用 |
| 根管充填 | 従来の根管充填剤 | MTA、バイオセラミックマテリアル |
| 処置時間 | 時間に限りあり | 長い処置時間を確保する |
| 処置回数 | 回数に限りあり | 完全に根管内がクリーンになるまで行う |
| 成功率 | 50%前後というデータあり | 90%以上 |
*CTは被ばく線量の関係で撮影を制限することもあります。
以下、各項目について詳しくご説明します。
CTの撮影
保険治療であってもCTを撮影することはできますが、適用範囲は限られており、必ず撮影できるわけではありません。根管治療の際には、顎全体を撮影する『パノラマエックス線写真』に加えて部分的な『デンタルエックス線写真』を使用しますが、CTでしかわからない3次元的な問題もあります。少なくとも、無いよりもあった方が治療の確実性は高まります。
マイクロスコープの使用
マイクロスコープは根管治療において必須と言ってもいいほどのツールです。当院では保険治療においても極力使用していますが、100%の症例で使用するのは現状難しい部分もあります。
マイクロスコープ専用ツール
根管の細かい部分を清掃するための専用器具です(詳しくは『みえる』だけでは意味がない。『とどく』ためのツールをご覧ください)。主にマイクロスコープ下で使用するもので、保険の根管治療ではあまり使用しません。基本的には、精密根管治療で根管内を徹底的に清潔にするフェーズで使用します。
ラバーダムの使用
当院では保険の根管治療でも極力使用していますが、一般的には保険の根管治療では使用しないことが多いのが実情です(ラバーダムについてはこちらで詳しく解説しています)。
薬液
根管内を洗浄する薬液にはさまざまな種類があり、中には少し強めの薬液もあります。そういった薬液を使用する際には、ラバーダム防湿下で洗浄すること、そしてキャビテーション(超音波で泡を発生させ洗浄効果を高める技術)を併用することが望ましいです。しっかりと根管洗浄を行うためには、根管治療のための環境整備と処置時間の確保が条件になります(根管洗浄についてはこちら)。
根管充填
最終的に詰めるお薬、根管充填材として使用するMTAは、本ブログ執筆時点ではまだ薬事未承認のため、保険治療では認可されておらず使用できません。保険治療で根管充填を行う際には従来の根管充填材を使用しますが、殺菌効果は基本的になく、根管内を封鎖する目的が主になります。
処置時間・処置回数
精密な処置を行うためには、それぞれの工程に時間がかかります。保険内で根管治療を行う際にはどうしても限られた時間内で行わなければならないため、処置内容にも制限が出てしまいます。
また、一般的なイメージとして根管治療は処置回数が多くかかるものと思われがちですが、実は回数が増えれば増えるほど成功率が低下するというデータもあります(抜髄の際)。これは、根管治療中の仮蓋(仮封)を100%緊密にすることが難しく、細菌を含む唾液などが中に入り込んでしまうためです。
成功率
保険治療における成功率は、日本においては非常に低いというデータがあります。歯の部位によって違いはありますが、45〜70%の確率で根の病気(根尖性歯周炎)があるというデータがよく参考にされます(『根管処置歯における根尖部X線透過像の発現率(2005.9〜2006.12 東京医科歯科大学)』)。これはつまり、それだけの数が失敗に終わっているということです。
初めて来院した患者様のレントゲンを撮影してみた際、根尖性歯周炎のある歯がだいたい全体の半数ほどであるのは、私自身よく感じるところであり、このデータは概ね正確である気がします。一方、当院での精密根管治療における成功率は90%ほどです。精密根管治療を行った歯で再治療が必要となることはあまりありません(場合によっては外科的歯内療法との併用になることがあります)。
以上が、当院における保険の根管治療と精密根管治療の違いになります。しかし費用が高額になりますので、必ずしも精密根管治療でなければならない、ということはありません。ご相談の上、ご自身に合った方法を選択されるのがよろしいかと思います。
結論:根管治療の選び方は「自分の歯をどう残したいか」によって変わる
つまり、「どれだけ歯を長持ちさせたいか」という価値観によって、最適な選択は変わるのです。当院では、保険診療・自費診療のどちらについても丁寧にご説明し、患者様お一人おひとりに合わせた治療をご提案しています。
「自費と保険、どちらの根管治療が自分に合っているか分からない」そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。精密根管治療のメリットや、保険診療の限界点まで、しっかりとお話しさせていただきます。