歯の神経(歯髄)は残した方がいい。
当然その通りですが、なぜでしょうか?
歯の強度が低下するから、、、と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
それは間違いです。
結果的に強度が低下することになるかもしれませんが、歯髄がないからといって直接的に強度は低下しません。
昔(今でも先生によって)は「歯髄をとってしまうと、歯が枯れ木のようになってしまって、水分や栄養がなくなってしまうので強度がなくなっちゃうんですよ。強度が弱くなると、歯が割れちゃったり歯根破折したりしちゃいますよ」
と説明されることが多かったと思います。
嘘、ではないのかもしれませんが、正解ではありません。
その辺りは、随分と昔からはっきりと解明されています。
犬の歯の実験ではありますが、有髄歯(歯髄が残っている歯)と無髄歯(歯髄がない歯)の水分量を比べた実験があります。
これによると、『有髄歯と無髄歯は9%の水分量の違いしかなかった』と報告されています。
Determination of the moisture content of vital and pulpless teeth
A R Helfer, S Melnick, H Schilder
Oral Surg Oral Med Oral Patholactions. 1972 Oct;34(4):661-70
また、水分量の違いによって歯が割れやすくなるのか、というと、これも否定する内容の報告が出ています。
Effects of moisture content and endodontic treatment on some mechanical properties of human dentin
T J Huang 1 , H Schilder, D Nathanson
J Endod. 1992 May;18(5):209-15
つまり、枯れ木のようになる、、、というのはある意味では間違っていないのかもしれませんが、若干水分量が減るというだけです。
それが強度に影響を及ぼしているわけではないので、歯が割れやすくなるということもありません。
根管治療をした歯(歯髄を取ってしまった歯)が破折を起こしやすい理由
それでは、なぜ根管治療をした歯が割れやすくなってしまうのか。
これも昔からちゃんと解明されています。
根管治療を専門としている先生方であれば知らないはずのない、有名な論文があります。
『Reduction in tooth stiffness as a result of endodontic and restorative procedures』
E S Reeh, H H Messer, W H Douglas
J Endod. 1989 Nov;15(11):512-6
『歯内療法や修復処置に伴う歯の硬度の減少』
というタイトルの論文になります。内容は、結論だけ簡単にまとめると以下の通りです。
根管治療は歯の強度に与える影響が小さく、剛性の減少は5%
詰め物のために歯を削ることで(MOD窩洞形成)、平均63%歯頸部の剛性が低下した。
つまり、根管治療のためにはアクセス窩洞といって、歯髄まで達する穴を開けなければいけませんが、これ自体は歯の強度を低下させることはない。
その後、詰め物をするときに(あるいは、すでに虫歯で歯質が喪失している場合も多くあります)歯を削りますが、その時に強度が低下する、ということです
辺縁歯質(歯を取り囲んでいる部分)の歯質が失われると、大きく歯の強度が落ちるようです。
これが、有髄歯に比べて無髄歯の方が破折が多い原因と考えられています。
歯髄を取ってしまうほどの虫歯ということは、かなり大部分の歯質を喪失している状態であることが多いです。
歯質を多く失えば失うほど、歯は強度を失い、歯冠・歯根破折を招くというわけです。
このことから、我々にできる事は
『なるべく健康な歯質を残すこと』
『アクセス窩洞は根管治療の妨げにならない最小限』
『適切な補綴処置(詰め物・被せ物)』
という点を心がけることだと思います。
こうして書き出してみると、実は何も特別な事はありません。
丁寧に処置を行うことが大切だということです。
また、強度が低下せずとも、歯髄がなくなってしまうことで『虫歯による痛みに気が付かなくなる』『噛んだ時の感覚が鈍くなる』『虫歯に対する免疫がなくなる』などの問題は起こり得ます。
そのため、やはり可能な限りは歯髄は保存すべきであると考えます。
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